備忘録【15】:アパレル業界に入ったばかりの話(その2)
仕事は少しずつ覚えましたが、しばらくはアパレルスタッフとして早く認めてもらいたいと、必死でした。
その頃のわたしは、月に2、3回ほど大学に通っていて、 月収もたいして伸びていません。そのため、わたしなりの戦略をたてて洋服を買ってゆこうと考えました。
まず、買うジャンルはふたつに絞りました。ひとつは、学生時代から好きだったアメリカンカジュアルです。これはこの会社の前身がアメカジショップだったことから、その根底を大事に保つ意味でも、わたしの得意分野をそのまま伸ばすことにしました。
もうひとつは、社内での評価が高い服やグッズです。その中でも高価なものだけに絞り、数ヶ月に1点ずつワードローブを増やしていきました。だからファッションを楽しむ感覚とは無縁で、入社して1年くらいは数種類の格好を着まわしていたと思います。
(話は変わって)入社して1ヶ月ほどが過ぎた頃、社員やベテランアルバイトの間で、とあるブランドの名前がちょいちょいと耳に飛び込んで来ました。そのブランドの会話になると、前後に「かっこいい」とか「渋いね」「良いねぇ」といったポジティブワード がくっ付いています。それはこの会社がフランスから代官山に持ってきた有名ブランドでした。
それから2、3ヶ月後、わたしはそのブランドのシャツを頑張って購入しました。それを着て出社したら、普段会話をすることがない先輩達と、共通の話題が持てると思うと、少しウキウキしていました。しかし、わたしがバックストックに入ると、店舗の一番年配の社員が入って来て「おまえがこんな服着る立場じゃ無い」「今度、この服を着てきたら破ってやる」って言われました。予想外だったのでびっくりしました。
丁稚(でっち)がこんな上等な服着る身分じゃない!って意味だと思いますけど、当時は年上の人でも情け容赦ない分、年こそ違えど、対等な立場にいさせてもらえた(今も居させてもらえている)気がしています。
まぁ、後日談ですけど、のちにこの先輩とは仲良くなり、そうなると、実はとても優しい人でした。でも、相変わらず新人には厳しくて、身内意識が強い方だったのかもしれませんね。その先輩からは、ファッションに関することや、着こなし、立ち振る舞いや価値観など、色々と教えてもらいました( あれこれ辛口でしたけど・・・)。
そんな 丁稚(でっち)バイトの毎日でしたが、腐らずにやってこれたのは同年代のアルバイト仲間のおかげです。
特に仲が良かったのは、同じ年のベテランアルバイトでした。彼からは、着こなしとか、靴などのメンテナンス方法、社内の流行や人間関係など、いろいろなことを教えてもらいました。彼はとにかくパワフルでユーモアに溢れていました。また、サービス精神と、ずば抜けた行動力、そしてスーパーポジティブさが加わっているものですから、刺激的な毎日です。しかし、彼はムードメーカーである一方、他人からの扱われ方に敏感で、結構苦労していたと思います。だから、彼を小馬鹿にしたり、尊敬できない先輩達にはよく腹を立ててましたね。
そして、その彼には幼馴染の友人がいました。彼はわたしの入社と入れ違いで、例の代官山にあるブランドに出向していたのです。
彼と最初に会ったのは、わたしが働く渋谷の店舗に荷物を届けに現れた時でした。ウールのパンツを穿き、ビンテージのライダースジャケットにシルクのスカーフを巻いています。なんか渋いんですね、同世代(当時は10代でしたから)とは思えないシックな雰囲気が漂っています。元々この店舗で働いていたので、皆とは仲が良くて「元気か?」なんて話しかけられていました。そのときは、ただただ遠くで見ているだけでしたけど、気がつくと彼とは何でも話せる友人になっていました。夜遊びに出掛けては、彼の実家に泊まらせてもらうようになりました。
また、わたしが入社して1ヶ月くらいすると、初の後輩アルバイトが入ってきました。やっと自分にも後輩が出来た!と、喜んでいたのも束の間、彼は数ヶ所のアパレルショップを渡り歩く(いわゆる)プロフェッショナルでした。すでに彼は社員と同じような出で立ちでしたし、それ以外にビンテージの洋服もたくさん持っていました。スタイルもいいから雰囲気もあってキラキラしています。当然、先輩からの扱いが丁寧だったし、依然としてわたしの立場は変わることがありません。
そんな彼には 近所のアメカジショップや老舗セレクトショップ、有名な古着屋などの親友がいて、アメカジ界隈の友人も彼を通して増えていきました。
学業そっちのけで仕事と夜遊びに明け暮れる毎日です。こうして知り合った友人は、みな自立して、とても大人びていました。その一方で、大学に行くと、先生に反抗していたり、授業をどうサボろうかなどと策略していたり、サークルの部室でダラダラしていたりと、やはり自分の居場所じゃないと確信するのでした。
次に続く・・・