<<備忘録へ

備忘録【16】:アパレル業界に入ったばかりの話(その3)

毎週ごと入荷してくる新商品とか、友人の働く洋服屋や古着屋に遊びに行けば、毎日がメンズカジュアルの展覧会のようで、そんな生活が楽しくて楽しくてたまりません。それだけ洋服が好きだったワケですけど、当然のように大学生活が無意味に思えたし、ショップスタッフとして仕事を続けていく意識が徐々に固まっていきました。

日々の仕事は慣れましたが、相変わらずハードです。毎日お店は大盛況、洋服を畳みながら「いらしゃいませ」と声を出し、品出しに追われ、てんてこ舞いのまま営業が終了します。閉店後は、ぐしゃぐしゃになった洋服の山を綺麗に整理するのに何時間も要して、終業近くにはクタクタです。それでも仕事が終わればゾンビのように復活して(なぜだか元気になっちゃうんですね)夜のクラブ活動へと出掛けてしまうのです。

 

この頃になると、わたしの格好もセレクトショップのスタッフらしく染まっていました。そんなプロっぽい服を身に纏うことで、すっかり調子づいていました。わたしの自信が無い部分がファッションで補填されることで、頭の中はすっかり物質至上主義に侵されていたのです。そもそも、この業界に入るとき、服に合う中身を磨こうと決意していたのに・・・

そんなある日、仕事帰りに近所の銭湯に立ち寄ります(風呂無しアパートだったからね)。風呂屋で体を洗っていると、「おい、こっちに(石鹸の)泡が掛かってるぞ!」「もっと、静かに体洗え!」って常連のオヤジに怒られました。咄嗟に、デカい体を小さくして「すみません・・・」と、わたしはそのオヤジに謝罪します。

迷惑をかけたから謝った、ただそれだけなのに、自分が(とても)ちっぽけな存在に思えてきました。裸という平等な場所で、上手に振る舞えない自分に対しての憤りなのか?プライドが傷ついたからか?原因はよくわかりませんが、なんだか虚しい気分になりました。

その後、下駄箱に入っているコードバンのオールデン(高級靴ですね)を履いて帰るのだけど、自分の持ち物と、自分の生活や立場、中身が全く合致していない現実に晒され、さらに落ち込むのでした。

オシャレって、なんだろう・・・

そんなジレンマを抱えつつ、職場に行けば再び元通りで、モヤモヤを心の奥にしまいこんで調子に乗り続けていました。

しかし、職場の環境は少しずつ変化していたのです。 

 

まず、代官山に出向していた友人はスタイリストを目指すためにアルバイトを辞めました。続いて、同じ年の友人(後輩バイトだけど業界では大先輩)も、別のセレクトショップに行くといって去っていきました。さらにベテランバイトの友人までもが海外留学に行くために辞めてしまいました。

 

ようやく、(アパレル関係者として)みんなに追いついた気がした矢先に、友人たちはそれぞれの目標に向けて羽ばたいていきました。ちょっぴり取り残された気分です。

 

 

ある日、お店では「あいつが店に戻ってくるらしい」との噂が聴こえてきました。社員からは「おまえは(ヤツのこと)知ってるだろ?」って当然のように言われるのだけど、会ったこともありません。どうやら、彼は一つ年下で、以前、ここでアルバイトをしていたらしい。アパレル業界に精通していて、スーパーオシャレな色男、雑誌のモデルもやっていたそうで、元彼女も人気モデルらしい・・・

どこまでが噂でどこまで本当かは不明でしたけど、とにかく話題な彼の登場で、わたしのアルバイト生活も次のフェーズに突入していくのでした。

ブログに戻る